難経

 

十四難


◆十四難曰.
脉有損至.何謂也.
然.
至之脉.一呼再至曰平.三至曰離經.四至曰奪精.五至曰死.六至曰命絶.
此至之脉也.
何謂損.
一呼一至曰離經.二呼一至曰奪精.三呼一至曰死.四呼一至曰命絶.
此謂損之脉也.
至脉從下上.損脉從上下也.

損脉之爲病.奈何.
然.
一損損於皮毛.皮聚而毛落.
二損損於血脉.血脉虚少.不能榮於五藏六府也.
三損損於肌肉.肌肉消痩.飮食不爲肌膚.
四損損於筋.筋緩不能自收持也.
五損損於骨.骨痿不能起於牀.
反此者至於收病也.
從上下者.骨痿不能起於牀者死.
從下上者.皮聚而毛落者死.

治損之法奈何.
然.
損其肺者.益其氣.
損其心者.調其榮衞.
損其脾者.調其飮食.適其寒温.
損其肝者.緩其中.
損其腎者.益其精.
此治損之法也.


有一呼再至.一吸再至.
有一呼三至.一吸三至.
有一呼四至.一吸四至.
有一呼五至.一吸五至.
有一呼六至.一吸六至.
有一呼一至.一吸一至.
有再呼一至.再吸一至.
有呼吸再至.
脉來如此.何以別知其病也.
然.
脉來一呼再至.一吸再至.不大不小.曰平.
一呼三至.一吸三至.爲適得病.前大後小.即頭痛目眩.前小後大.即胸滿短氣.
一呼四至.一吸四至.病欲甚.脉洪大者.苦煩滿.沈細者.腹中痛.滑者傷熱.濇者中霧露.
一呼五至.一吸五至.其人當困.沈細夜加.浮大晝加.不大不小.雖困可治.其有大小者.爲難治.
一呼六至.一吸六至.爲死脉也.沈細夜死.浮大晝死.
一呼一至.一吸一至.名曰損.人雖能行.猶當著牀.所以然者.血氣皆不足故也.
再呼一至.再吸一至.名曰無魂.無魂者當死也.人雖能行.名曰行尸.

上部有脉.下部無脉.其人當吐.不吐者死.
上部無脉.下部有脉.雖困無能爲害也.
所以然者.譬如人之有尺.樹之有根.枝葉雖枯槁.根本將自生.
脉有根本.人有元氣.故知不死.

十四難に曰く、
脈に損至ありとは、何の謂いぞや?
然り、
至の脈は、一呼に再至を平といい、三至を離経といい、四至を奪精といい、五至を死といい、六至を命絶とという.
此れが至の脈なり.
何をか損という.
一呼に一至を離経といい、ニ呼に一至を奪精といい、三呼に一至を死といい、四呼に一至を命絶という.
此れが損の脈なり.
至脈は下より上り、損脉は上より下る.

損脉の病を為すこといかに?
然り、
一損すれば皮毛を損じ、皮は聚りて毛は落つ.
ニ損すれば血脈を損じ、血脉は虚少にして、五臓六腑を栄すること能わざるなり.
三損すれば肌肉を損じ、肌肉は消痩して飲食は肌膚となること能わざるなり.
四損すれば筋を損じ、筋は緩みて自ら修持すること能わず.
五損すれば骨を損じ、骨は痿えて床に起つこと能わず.
此れに反するは収病に至るなり.
上より下る者は、骨が痿えて床に起つこと能わざる者は死す.
下より上る者は皮が聚りて毛が落ちる者は死す.

損を治するの法は奈何に?
然り、
其の肺を損ずる者は、其の気を益す.
其の心を損ずる者は、其の栄衛を調う.
其の脾を損ずる者は、其の飲食を調え、其の寒温を適す.
其の肝を損ずる者は、其の中を緩やかにす.
其の腎を損ずる者は、其の精を益す.
此れ損の治する法なり.

脈に
有一呼再至・一吸再至あり.
有一呼三至・一吸三至あり.
有一呼四至・一吸四至あり.
有一呼五至・一吸五至あり.
有一呼六至・一吸六至あり.
有一呼一至・一吸一至あり.
有再呼一至・再吸一至あり.
有呼吸再至あり.
脈の来ること此のごときは、何を以て其の病を別ち知るや?
然り、
脈の来ること一呼再至・一吸再至にして、大ならず小ならずを平という.
一呼三至・一吸三至をまさに病を得たりとなし、前が大で後ろが小なるときは即ち頭痛み目眩し、前が小に後ろが大なるときは即ち胸満し短気なり.
一呼四至・一吸四至なるは病甚だしきこと欲し、脈の洪大なるものは煩満を苦しみ、沈細なる者は腹中が痛み、滑なる者は熱に傷られ、濇なるものは霧露に中れるなり.
一呼五至・一吸五至なるは其の人は当に困し、沈細なるは夜に加わり、浮大なるは昼に加わる.大ならず小ならずは困すといえども治すこと可、大小あるものは治し難しとなす.
一呼六至・一吸六至は死脈と為すなり.沈細なるは夜に死し、浮大なるは昼に死す.
一呼一至・一吸一至を名づけて損といい、人は能く行くといえどもなお当に床に着く
なり.然る所以の者、血気皆不足するが故なり.
再呼一至・一吸一至を名づけて無魂といい、無魂なる者は当に死すなり.人は能く行くといえども名づけて行屍(尸)(あんし)という.

上部に脈あり、下部に脈無しは、其の人当に吐するなり.吐かざるものは死す.
上部に脈なく、下部に脈あるときは、困すといえども能く害をなすことなしなり.
然る所以の者は、譬えば人に尺あるは、樹に根があるごとく、枝葉が枯れるといえども根本は将に自ら生きるべし.
脈に根本あるは、人に元気あることなり.故に死せざること知るなり.