難経

 

十五難


◆十五難曰.
經言.
春脉弦.夏脉鉤.秋脉毛.冬脉石.是王脉耶.
將病脉也.
然.
弦鉤毛石者.四時之脉也.
春脉弦者.肝東方木也.萬物始生.未有枝葉.故其脉之來.濡弱而長.故曰弦.
夏脉鉤者.心南方火也.萬物之所盛(茂).垂枝布葉.皆下曲如鉤.故其脉之來疾去遲.故曰鉤.
秋脉毛者.肺西方金也.萬物之所終.草木華葉.皆秋而落.其枝獨在若毫毛也.故其脉之來.輕虚以浮.故曰毛.
冬脉石者.腎北方水也.萬物之所藏也.盛冬之時.水凝如石.故其脉之來.沈濡而滑.故曰石.
此四時之脉也.

如有變奈何.
然.

春脉弦.反者爲病.
何謂反.
然.其
氣來實強.是謂太過.病在外.
氣來虚微.是謂不及.病在内.
氣來厭厭聶聶.如循楡葉.曰平.
益實而滑.如循長竿.曰病.
急而勁益強.如新張弓弦.曰死.
春脉微弦.曰平.弦多胃氣少.曰病.但弦無胃氣.曰死.春以胃氣爲本.

夏脉鉤.反者爲病.何謂反.
然.其
氣來實強.是謂太過.病在外.
氣來虚微.是謂不及.病在内.
其脉來累累如環.如循琅玕.曰平.
來而益數.如雞擧足者.曰病.
前曲後居.如操帶鉤.曰死.
夏脉微鉤.曰平.鉤多胃氣少.曰病.但鉤無胃氣.曰死.夏以胃氣爲本.

秋脉微毛.反者爲病.何謂反.
然.
氣來實強.是謂太過.病在外.
氣來虚微.是謂不及.病在内.
其脉來藹藹如車蓋.按之益大.曰平.
不上不下.如循雞羽.曰病.
按之消(粛)索.如風吹毛.曰死.
秋脉微毛.爲平.毛多胃氣少.曰病.但毛無胃氣.曰死.秋以胃氣爲本.

冬脉石.反者爲病.何謂反.
然.其
氣來實強.是謂太過.病在外.
氣來虚微.是謂不及.病在内.
脉來上大下兌.濡滑如雀之啄.曰平.
啄啄連屬.其中微曲.曰病.
來如解索.去如彈石.曰死.
冬脉微石.曰平.石多胃氣少.曰病.但石無胃氣.曰死.冬以胃氣爲本.

胃者.水穀之海也.主稟.
四時故皆以胃氣爲本.是謂四時之變病.死生之要會也.
(是謂四時之變.病死生之要會也.)

脾者.中州也.其平和不可得見.衰乃見耳.
來如雀之啄.如水之下漏.是脾之衰見也.

十五難に曰く、
経に言う.
「春の脈は弦.夏の脈は鉤.秋の脈は毛.冬の脈は石なり」と.
是れ王脈なりや、将(はたまた)病脈なりか?
然り、
弦・鉤・毛・石は四時の脈なり.
春の脈の弦なるは、肝は東方の木なり.万物の生じ始まるも未だ枝葉あらず.故に其の脈の来ること濡(じゅ・なん)弱にして長.故に弦という.
夏の脈の鉤なるは、心は南方の火なり.万物の盛んなる(茂る)ところ、枝を垂れ葉を布(ひろ)げ、皆な下に曲がりて鉤のごとし.故に其の脈の来ることは疾(はや)く、去ることは遅し.故に鉤という.
秋の脈の毛なるは、肺は西方の金なれば、万物の終わるところ、草木花葉は皆な秋にして落ち、其の枝のみ独りあり毫毛の如し.故に其の脈の来ること軽虚にして浮なり.故に毛という.
冬の脈の石なるは、腎は北方の水なれば、万物の蔵するところ、冬盛んなる時、水は凝(こおり)て石の如し.故に其の脈の来ること沈濡にして滑なり.故に石という.
これ四時の脈なり.

変あるがごときとはいかに?
然り、

春の脈は弦なり、反する者は病となす.
何をか反するというや?
然り、
その気の来ること実強なるをこれ太過といい、病は外にあり.
気の来ること虚微なるをこれ不及といい、病は内にあり.
気の来ること厭々聶々(えんえんじょうじょう)として楡(にれ)の葉を循るが如きを平という.
益々(ますます)実にして滑なること長竿を循るが如きを病という.
急にして勁(つよ)く益々強きこと新張の弓の弦の如きを死という.
春の脈は微弦なるを平といい、弦のみ多く胃の気の少なきを病といい、但(ただ)、弦にして胃の気の無きを死という.春は胃の気を以て本となす.

夏の脈は鉤なれば、反する者は病となす.
何をか反するというや?
然り、
その気の来ること実強なるをこれ太過といい、病は外に在り.
気の来ること虚微なるをこれ不及といい、病は内にあり.
その脈来ること累々として環(たまき)の如く、琅玕(ろうかん)を循るが如きを平といい、来ること益々数(さく)にして鶏の足を挙ぐるが如きを病といい、前は曲がり後ろは居すること帯鉤を操るが如きを死という.
夏の脈は微鉤なるを平といい、鉤のみ多く胃の気の少なきを病といい、但、鉤にして胃の気の無きを死という.夏は胃の気を以て本となす.

秋の脈は毛なれば、反する者は病となす.
何をか反するというや?
然り、
その気の来ること実強なるをこれ太過といい、病は外にあり.
気の来ること虚微なるをこれ不及といい、病は内にあり.
その脈の来ること藹々(あいあい)として車蓋(しゃがい)の如くにして、之を按じて益々大なるを平といい、上らず下らずして鶏羽(けいう)を循るが如きを病といい、之を按じ粛索(しゅくさく)として風が毛を吹くが如きを死という.
秋の脈は微毛なるを平といい、毛のみ多く胃の気の少なきを病といい、但、毛にして胃の気の無きを死という.秋は胃の気を以て本となす.

冬の脈は石なれば、反する者は病となす.
何をか反するというや?
然り、
その気の来ること実強なるをこれ太過といい、病は外にあり.
気の来ること虚微なるを、これ不及といい、病は内にあり.
脈の来ること上は大に下は兌(だ)にして、濡滑なること雀の啄(くちばし)の如きを平といい、啄々(たくたく)として連属して、その中が微に曲がるを病といい、来ること解索(かいさく)のごとく、去ること弾石のごときを死という.
冬の脈は微石なるを平といい、石のみ多く胃の気の少なきを病という.但、石にして胃の気の無きを死という.冬は胃の気を以て本となす.

胃は、水穀の海なり.
四時に稟(うく)ることを主り、皆な胃の気を以て本となす.是を四時の変と謂う.
病死生の要会なり.

脾は、中州なり.その平和は得て見(あらわ)るを得べからずとして、衰えてすなわち見るのみ.
来ること雀の啄ばむが如く、水の下漏するがごときは、是れ脾が衰えて見わるものなり.